新民法について(7)【賃貸借】

1.賃借人による賃借物の修繕について

 賃借物が修繕が必要な状態になった場合でも、賃借物は賃貸人の物ですので、賃借人が勝手に修繕することはできません。しかし、賃貸人が修繕をしてくれない場合、賃借人が修繕できないとすると困ってしまいます。

 改正前民法には、賃借人が賃借物の修繕をすることができる場合についての規定がなく、トラブルが生じていました。

 そこで今回の改正では、①賃借人が賃貸人に対し、修繕が必要であることを通知し、又は賃貸人が修繕が必要であることを知ったのに、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき、または、②急迫の事情がある場合には、賃借人が目的物を修繕することができるとさだめました(改正後民法第607条の2)。今後は、修繕の範囲や急迫の事情の内容等について争われる可能性がありますので、あらかじめ賃貸借契約で定めておくとよいでしょう。

2.賃借物が一部滅失等をした場合について

 改正前民法では、賃借人の責任なく賃借物の一部が滅失した場合、賃借人は自ら減額請求をしなければ賃料は減額されませんでした(改正前民法第611)

 今回の改正では、賃料は賃借人からの請求を待たずに当然に減額されるとされました(改正後民法第6111)

 また、賃借物が一部滅失等し、使用収益出来なくなった場合、改正前民法では、その滅失等について賃借人の過失がない場合のみ、賃借人は賃貸借契約を解除することができるとされていました(改正前民法6112)

 今回の改正では、一部滅失等により使用収益できなくなった場合には、一部滅失等について賃借人の過失の有無を問わず、賃借人は賃貸借契約を解除することができるとされました(改正後民法6112)

3.賃貸不動産が譲渡された場合について

 改正前民法では、建物の賃貸借契約が継続している間に賃貸建物が譲渡された場合、賃貸人の地位が移転するのかどうかについての規定はありませんでした。

 今回の改正では、上記の場合、賃貸借の対抗要件を備えているときは賃貸人の地位は、原則として、賃貸建物の譲受人に移転するとされました(改正後民法第605条の21)

 また、賃貸建物の譲受人が、賃借人に対して賃料を請求するには、賃貸不動産の所有権移転登記が必要とされました(改正後民法605条の23)。そのため、賃貸建物を譲り受けた方は、早めに所有権移転登記手続をしたほうがよいでしょう。

4.原状回復義務について

 改正前民法では、賃貸借契約の終了時の原状回復義務の範囲についての明確な規定がなかったため、トラブルの原因となっていました。

 そこで、今回の改正では、賃借人は賃借物を受け取った後に生じた損傷について原状回復義務を負うが、通常損耗や経年劣化については原状回復義務は負わないとされました(改正後民法第621)。東京都では民間賃貸住宅に関する条例(東京における住宅の賃貸借に係る紛争の防止に係る条例)が定められており、これを受けて、東京都住宅政策本部から「賃貸住宅トラブル防止ガイドライン」が出ていますので参考にしてみてください。

https://www.juutakuseisaku.metro.tokyo.lg.jp/juutaku_seisaku/tintai/310-3-jyuutaku.htm

5.敷金について

 改正前民法では、敷金の定義や、敷金返還請求権の発生時期についての規定がありませんでした。

 今回の改正では、敷金とは、「いかなる名目によるかを問わず、賃料債務その他の賃貸借に基づいて生ずる賃借人の賃貸人に対する金銭の給付を目的とする債務を担保する目的で、賃借人が賃貸人に交付する金銭」と定義しました(改正後民法622条の21項柱書)

 また、敷金返還請求権の発生時期については、賃貸借契約が終了し、賃借物が返還された時点で発生すると規定されました(改正後民法第622条の21)。敷金の額については、賃貸人が受領した額から、それまでに生じた未払い金銭債務(未払賃料、原状回復費用など)の額を控除した額とされました(改正後民法第622条第1項柱書)

6.経過措置

 原則として、施行日(202041)よりも前に締結された賃貸借契約については改正前民法が、施行日よりも後に締結された賃貸借契約については改正後民法が適用されます(附則341)

(文責:横山愛聖)

この記事を書いた人 弁護士 大澤美穂子

2005 年 10 月弁護士登録(第二東京弁護士会所属)、クラース東京法律事務所代表弁護士。
企業法務、一般民事、離婚などの家事事件、高齢者問題(成年後見、遺言、相続)など広く取り扱い、クライアントのニーズに合った最適な解決方法を目指している。

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