新民法について(6)【相殺】
1.不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺禁止の範囲の見直し
改正前民法は、不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権(相殺する人が払う場合の債権のこと)とする相殺を一律に禁止していました(改正前民法第509条)。例えば、AさんはBさんから仕事を請け負っていたので、AさんからBさんに対して報酬請求債権があり(自働債権)、他方、AさんはBさんに私的に迷惑なこと(違法行為)をしたため、BさんはAさんに対して慰謝料支払い請求権を持っている(受働債権)という場合、改正前の民法では、Aさんから両債権を相殺することが禁止されていました。この趣旨は、債権者(Aさん)による不法行為の誘発を防止すること、被害者(Bさん)に対して実際にお金を払わせるべきことにありました。もっとも、全ての不法行為に適用させる必要もないだろうということで、
今回の改正で相殺禁止の範囲が限定され、①悪意(害意)で行われた不法行為に基づく損害賠償債権を受働債権とする相殺と、②人の生命・身体の侵害による損害賠償債権を受働債権とする相殺のみ、禁止の対象としました(改正後民法第509条本文)。
ただし、これらの損害賠償債権が譲渡された場合、損害賠償債権の債務者は、相殺をすることができます。
2.差押えを受けた債権を受働債権とする相殺の禁止
今回の改正では、差押えを受けた債権の第三債務者は、差押え前に取得した債権による相殺を、差押債権者に対抗することができることを明文化しました(改正後民法第511条1項)。
また、差押え後に取得した債権であっても、当該債権が差押え前の原因に基づいて生じた債権である場合には、当該債権を自働債権とする相殺を差押債権者に対抗することができるとしました(同法第511条2項)。もっとも、第三債務者が差押え後に他人の債権を取得した場合には、相殺を対抗することはできません(同項ただし書)。
3.相殺制限特約
今回の改正により、債権に相殺制限特約が付いている場合、第三者が譲渡制限特約について知っている又は知らないことについて重大な過失がある場合には、第三者に対し、特約を対抗することができるとされました(同法第505条2項)。
4.相殺の充当
今回の改正では、判例を踏まえ、自働債権または受働債権が複数ある場合、①相殺の充当の順序について合意がある場合には、その合意に従って消滅する、②合意がない場合には、相殺適状となった時期の順序に従って消滅する(同法第512条1項)、③弁済の充当の相当規定を準用するとされました(同条2項・第3項)。すなわち③については、相殺適状となった時期が同じ債務がある場合、相殺の利益が多い順に充当されます。また、利息・費用債権については、費用、利息、元本の順に充当されます。
(文責:横山愛聖)